電子機器を購入すると、箱が開かないようにシールやテープが貼られていることがあります。ときには、「このシールが剥がされた商品は、返品をお断りします」などと、警告されていることもあります。このようなシーンで用いる、「剥がされたら元には戻せない」仕組みのシールを、「セキュリティシール」と呼びます。別名で、開封防止シール、改竄防止シール、ボイド(void)シールなどと呼ばれることもあります。voidは、英語で「無効の(無効にする)」という意味の言葉です。
この記事では、セキュリティシールについての特許明細書を参照しながら、その使い方や種類、機能を実現するための仕組みを解説します。
セキュリティシールとは
セキュリティシールとは、一度貼り付けた後で剥がした場合、痕跡が残るようにしたシールです。一定の形状に裁断されたシールではなく、長いテープとして売られていることもあります。
痕跡とは、例えば、剥がしたシールに文字が浮き出たり、貼られていた箇所に印刷が残ったりすることを指します。紙の裏に粘着剤が塗られた普通のシールでは、丁寧に剥がせばシールを傷めず、再び貼り直せる場合があります。紙製の箱に貼られた場合は難しいこともありますが、ソフトウェアのケースなどプラスチックの表面の場合、きれいに剥がすことは比較的容易です。
しかし、剥がしたら痕跡が残るようにすることで、剥がされたかどうかを判別することができます。つまり、「痕跡がない」=「剥がされていない」ということになるのです。
セキュリティシールの利用シーン
セキュリティシールは、次のような目的で使うことができます。
・開封された証拠
セキュリティシールは、商品の箱に貼ることで、開封されたことの証拠として使われます。例えば、ソフトウェアをPCにダウンロードした後で返品されると、無料で使えてしまう場合があります。業者にとっては料金を取り損なうことになり、損害となります。そのため、セキュリティシールが剥がされていない場合にのみ、返品を認めていることがあります。
・電子機器の改造防止
高価な電子機器などは、無料で修理を受け付ける保証期間を設けている場合があります。その場合も、本来の用途を超えた使用をした場合は対象外となることが多いでしょう。改造はその一例で、購入者によって分解されたことがわかるように、部品にセキュリティシールが貼られていることがあります。
・美術館の撮影防止
美術館や、機密情報を扱っている研究所などの撮影禁止の場所では、スマートフォンやカメラのレンズをセキュリティシールで覆うように求められることがあります。施設に入るときにセキュリティシールを貼って、出るときに剥がされた痕跡がなければ、レンズがずっと覆い隠されていて、撮影はできなかったと判断できるのです。そのため、スマートフォン自体を預けなくても済みます。
・機密情報の漏洩防止
社内でやり取りする書類を、封筒に入れてセキュリティシールで封じておけば、簡易な漏洩防止策となります。封筒ごと持ち出されてしまえばどうにもなりませんが、みんなが帰宅した後に、残業している同僚が盗み見るような事態は防ぐことができます。
・衛生管理
感染症の流行対策として、ホテルで、室内の殺菌が完了した部屋のドアに貼り付けるためのセキュリティシールが商品化されています。スタッフが清掃・殺菌を終えたら、部屋を出るときにドアにセキュリティシールを貼ります。剥がした痕跡がなければ、殺菌後には誰も入っていないことになるため、利用客は安心して部屋を使うことができます。
・手品
手品では、箱の中身には誰も触ることができなかったと証明する必要が、しばしば発生します。このような場面では、セキュリティシールの機能を説明した上で、目の前でアイテムを箱の中に入れ、シールを貼るとよさそうです。もちろん、トリックは他のところに仕掛けてください。
・没収
家庭で子供がゲームをしすぎた場合、罰としてゲーム機を没収することもあるでしょう。しかし、家族同士のことですから、家の中では隠し場所にも限度があります。親がいない間に遊んで、帰ってくる前に戻しておくような子供もいるでしょう。そこで、ゲーム機のスイッチをセキュリティシールで覆うか、袋に入れてセキュリティシールで閉じておくことで、勝手に遊べば一目瞭然となります。親子の約束を確実に守らせることができますね。
セキュリティシールの種類
セキュリティシールは、仕組みによって、大きく3種類に分けられます。
- 脆質タイプ → シール基材が裂ける
- 転写タイプ → シールと貼り付け先に痕跡が残る
- 非転写タイプ → シールに痕跡が残る
脆質タイプ
脆質タイプは、シール全体が裂けたりちぎれたりしやすいセキュリティシールです。剥がそうとすると、シールが破けてしまい、きれいに剥がすことができません。特殊な材料を使ったものもありますが、簡易的には、シールに切り込みを入れることで、この機能を代替することができます。セロテープを剥がそうとして端のギザギザから裂けてしまい、1回で剥がせなかった経験を思い浮かべれば、納得していただけると思います。
脆質タイプのデメリットは、貼り付けた先にシールの破片が残り、剥がした跡の見栄えが悪くなることです。剥がすのに手間がかかるので、保管用の箱に使用したり、商品に直接貼ったりするには向きません。
転写タイプ
転写タイプは、剥がそうとするとシールの基材(紙などの、表側の層)が剥がれ、粘着剤層が貼り付け先に残る仕組みのセキュリティシールです。後ほど詳しく説明しますが、着色が文字の形に粘着剤層に残るようにすることで、「開封済」などの文言を貼り付け先に表示させることができます。
この仕組みでは、シールと貼り付け先との両方に痕跡が残ります。デメリットとしては、貼り付け先に粘着剤層が残るので、商品自体に貼るには向かないことです。ただし、除去しやすい粘着剤を使用することで、用が済んだらきれいにできるシールもあります。
非転写タイプ
非転写タイプは、シール自体はきれいに剥がれるけれど、剥がしたシールの基材側に痕跡が残る仕組みのセキュリティシールです。後ほど解説するように、文字や記号を仕込んで、剥がした後のセキュリティシールに浮かび上がらせることができます。どのような仕組みによって機能を実現しているのか、転写タイプと対比しながら解説します。
セキュリティシールの構造と仕組み
転写タイプ
まずは転写タイプのセキュリティシールの基本構造を説明します。説明に当たって、凸版印刷株式会社の「不正防止用表示シート」(特開平09-123655)を参考にしていますが、わかりやすくするために一部構造を変更しています。
上の商品の画像では、剥がす前のシールは全体が均一な銀色です。剥がした後は、貼り付け先には「開封済」の文字が残され、シール側は「開封済」の文字の形に色が薄くなっています。これは、銀色の金属皮膜が、シール側と貼り付け先とに分かれたことが原因です。

上の図は、セキュリティシールの断面の模式図です。
セキュリティシールは複数の層から構成されます。上から順に、基材層、<部分的に>剥離剤層、発色剤層、粘着剤層です。
基材層は、透明なプラスチック素材でできています。セキュリティシールを貼るときに指で触る層です。
剥離剤層は、基材層と発色剤層とが、直接くっつかないように保っています。
発色剤層は色が着いている部分で、印刷層と呼ばれることもあります。先ほどリンクを張った商品では、銀色の金属皮膜が発色剤層として使われています。基材が透明なので、目に見えるのは発色剤層の色です。
基材層のすぐ下では、剥離剤層と発色剤層とがまだらになっています(ここがポイント!)。
その下には粘着剤層があります。粘着剤層によって、セキュリティシールをものに貼り付けることができます。
一度貼り付けたセキュリティシールを剥がすとき、粘着剤層は貼り付け先に残ろうとします。このとき、(A)基材層と発色剤層とが直接くっついていると、手元には「基材層+発色剤層」、つまり「色のついた基材層」が残り、貼り付け先には「色の抜けた粘着剤層」が残ります。
一方で、(B)基材層と発色剤層との間に剥離剤層があると、手元には「色の抜けた基材層」が残り、貼り付け先には「色のついた粘着剤層」が残ります。

転写タイプのセキュリティシールでは、基材層の下に部分的に剥離剤層が設けられています。
そのため、剥離剤層がない部分では、(A)のように基材層に色が残ります。一方、剥離剤がある部分では、(B)のように粘着剤層側に色が残ります。
つまり、基材層側と粘着剤層側のどちらに色が残るかは、剥離剤層の有無が決めているのです。
セキュリティシールを製造するときに、「開封済」という文字の形に剥離剤層を設けると、剥がした基材層からは「開封済」の文字が抜け、粘着剤層側には「開封済」の文字が残るようになります。
以上が、転写タイプのセキュリティシールの仕組みです。
非転写タイプ
続いて、非転写タイプのセキュリティシールの仕組みを解説します。
こちらは、日東電工CSシステム株式会社の「剥離検知粘着シート」(特許第4674981号)に基づいて解説します。なお、この特許では発色剤層の意味で「印刷層」が使用されていますが、ここでは「発色剤層」に統一して説明します。

非転写タイプのセキュリティシールは、上から順に、基材層、部分的に剥離剤層、発色剤層、中間層、粘着剤層が積層された構造です。構成要素としては、中間層があること以外は転写タイプと同じです。しかし、転写タイプとの違いは、層自体の丈夫さと、層同士の間の接着の強さによって生じます。
一度貼り付けたセキュリティシールを剥がすとき、転写タイプでは、基材層側と粘着剤層側とで2つに分かれました。一方で、非転写タイプでは、シールが一体のままきれいに剥がれる必要があります。そのため、ちぎれることなく剥がれるように、層自体の耐性と穏やかな粘着性とを備えています。
しかし、これだけでは、ただの「剥がせるシール」と変わりません。セキュリティシールとして使用するためには、剥がした痕跡を示すための仕組みが必要です。非転写タイプでは、剥がすときにシールにかかる負荷によって発色剤層が伸びて歪んだり、剥離剤層の下に隙間が生じるたりすることで痕跡が残ります。剥離剤がない部分では、互いにくっついた層が支え合って構造が維持されます。

発色剤層の歪みや隙間に起因する光の反射の変化によって、剥がされたものであることを視覚的に認識することができます。転写タイプと同様に、剥離剤層の形状を文字の形状にすることで、剥がした後にはその文字を浮かび上がらせることができます。
セキュリティシールの剥がし方
上に述べたように、セキュリティシールの機能を実現するために、粘着剤が特殊なものである必要はありません。そのため、一般的なシールの剥がし方が有効であると思われます。
すなわち、シール剥がし液を染み込ませることや、熱風を当てて粘着を弱らせることが有効であると思われます。
ロール状に巻かれたテープタイプのセキュリティシールでは、シールの上面に剥離ライナー層が設けられています。個別のシールの形状のものでも、使用前は剥離ライナーシートに貼られているでしょう。これらからきれいに剥がすことができなければ、そもそも使用することができません。
したがって、粘着が十分に弱く、シールに負荷を加えることなく剥がすことができれば、痕跡を残さずにセキュリティシールを除去できると考えられます。
セキュリティシールの応用製品
セキュリティシールの利用用途は既に上に書きましたが、具体的な用途に最適化した製品や、セキュリティシールへの応用技術をいくつか紹介します。
携帯端末用セキュリティシール
こちらの製品は、スマートフォンなどの携帯端末のカメラレンズを隠すための専用商品です。撮影禁止の場所にカメラ付き電子機器を持ち込む場合に活用されます。このシールは転写式で、剥がすと「VOID」の文字が貼り付け先に残ります。レンズ部分には粘着剤がついていないため、安心して貼ることができます。また、剥がしやすいように、つまみ部分があります。さらに、クリーニング用シールが付属しており、不要になった転写部分をきれいに剥がすことができます。
社名を基材に印刷したセキュリティシール
楽天市場やAmazonで注文するのは難しいとは思いますが、基材に社名などを印刷して販売してくれるメーカーがあります。誰でも入手できるセキュリティシールでは、きれいに剥がしてから新品を貼り直せば、剥がした痕跡を隠せてしまいます。しかし、自社だけが持っているセキュリティシールならそのような心配はなく、よりセキュリティを高めることができます。
剥がすと社名が浮かび上がるセキュリティシール
構造と仕組みの解説で書いたように、剥がすと浮かび上がる文字は、剥離剤層の形状です。そのため、よほどの大ロットでなければ、その形状を変更するのは難しいと思われます。
しかし、株式会社サトー(サトーホールディングス株式会社)の特許「封緘ラベル」(特許第4745957号)には、セキュリティシールの層内に、熱を加えることで粘着性が生じる層を設けた転写形ラベルが記載されています。
上で説明した構造では、剥離剤層によって、色が粘着剤層に残るようになっています。この特許では対照的に、熱で活性化した粘着剤層によって、色が粘着剤層から除かれるようになっています。つまり、浮かび上がる文字は、シールとして形成した後で、熱を加える段階で決定することができます。
この技術なら、剥がすと浮かび上がる部分の形状を社名にすることも、比較的容易にできそうです。ただし、権利者が維持費を支払うのを停止したため、この特許は既に権利が消滅しています。サトーホールディングスとしては、この技術を積極的に使う意思はないのでしょう。
セキュリティシールのタイプ別使い分け
セキュリティシールは、利用シーンによってふさわしいタイプが異なります。目的に合わせて、適切なタイプを選びましょう。
貼り付け先が捨ててもよいものである場合
フードデリバリーの容器など、貼り付け先を保存することが想定されないなら、脆質タイプでも十分でしょう。包装材が紙などの弱い材質であれば、通常のテープを使うだけでもよいかもしれません。あるいは、シールに切れ込みを入れることで代替することもできます。見栄えは悪くなりますが、費用を抑えることができます。
大事なものに貼る場合
携帯端末や化粧箱など、貼り付け先の外観を損ねたくない場合は、非転写タイプか、転写タイプのうちのきれいに剥がせるものを使うべきです。ただし、その場合は、きれいに剥がした上で新品のセキュリティシールを貼られると、剥がす前の状態を再現できてしまいます。そのため、入手困難な社名入りのシールを使う、シールの上にサインをするなどの対策をするとよいでしょう。
上記の間の場合
転写タイプのセキュリティシールであれば、脆質タイプよりも美観を損ねずに、非転写タイプよりもセキュリティを高めることができます。
最後までこの記事をお読みいただき、ありがとうございました。


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